-前回のあらすじ-
『モテなくたっていいじゃない。人間だもの』をスローガンに、ブサ イク自慢・キモさ自慢を誇る豪傑たちが、モテることよりも尊い究極の価値を追求する集団、『モテない連盟』。そんな私の所属する誇り高き連盟の中に裏切り者がいる という噂を聞きつけ、反逆者を抹殺するために隣町のファミレスへ。そこでイチャついていたカップルは、メンバーYと見知らぬ女性だった。激しい羨みと悲しみに襲われ ながらも、ラブラブな二人の間に強引に分け入り、いらんことをして仲を引き裂くと いう使命を果たすため、我々は決死の突入を試みる…。
と、まぁ一部にいま考えた余計なものを付け足しつつも、だいたい前 回の話がこんなトコで終わったワケですが、実際に店内で談笑している女性とYの姿を 目の前にすると、やはり後込みするものです。アツアツな二人からは、まるでフランス映画のワンシーンのような甘ったるい香りが放たれており、そこだけ完全にローマの休日です。実際は日本の平日だということも、さらにローマはフランスではなくイタリアだということも二人には全然お構いなしなのです。この空間に、窓ガラスを突き破るかの如く強引に我々が侵入しようものなら、空気をブチ壊すことは必至であり、突如として舞台は香港アクション映画となります。この二人の間に割って入ることは、ローマの休日をジャッキー・チェン主演でリメイクするほどの後先を考えない勇気を必要とするのです。
[adsense]
とは言え、我々には異性に目が眩んだ不届き者のYの恋路を邪魔する義務があり、とりわけモテ連の名誉会長…いや、不名誉会長である私は先陣を切って乱入せねばなりません。
死の覚悟を決め、雄叫びをあげながらの入店です。果敢に敵の牙城へ と突き進み、Yたちの隣の席に陣取りました。Yは我々の侵入に気付かないフリをしつつもこちらをチラ見し、明らかに動揺しています。仲間に隠し事をしていたという罪悪感からか、あるいはこれから始まる凄惨な戦いを予感しているのでしょうか。隣同士で会話を交わすこともなく、互いに牽制しながらの長い沈黙となりました。緊張の迸る静寂の中、ここで次なる命題が掲げられたのです。
「隣に座ったのは良いものの、これからどうするよ…?」
我々にはこの緊迫した状況から、さらにもう一歩踏み込む必要があり ます。…が、その前に相手の女性の顔を確認せねばなりません。顔は正面を向いたまま、眼球だけ思いっきりスライドです。まぁ我々と同じくモテ要素ゼロのYのことですか ら、きっと相手の女性もアレな感じだろ?と思って覗いてみると、意外にも清楚でおしとやかなお嬢さん。彼女だけ見れば間違いなくここはローマであり、今日は休日で す。いや、実際にローマの休日なんて知りませんし、観たこともないのですが、オード リー・ナントカバーンとかいう人のイメージそのものです。許すまじY!もはやYの極刑は免れません。
ヤツの砦を打ち崩すべく、ここで一気に間合いを詰めます。
「おぅ!Y!いや~、こんなトコで会うなんて偶然~!あれ?隣の方はお 知り合い?」
という不自然さアリアリな猿芝居でYの領域に力尽くで入り込みます。苦笑いするY、事態が掴めずにうろたえるナントカバーン、必死にYは
「友達!ナントカバーンは友達!」
と我々に対して取り繕っていましたが、ローマの休日が友情を描いた物語ではなく、何かちょっとオシャレなラブ・ロマンスっぽいお話だというコトくらい 知っています。
あくまで友達だと主張し、口を割ろうとしないYに業を煮やし、今度は 標準をナントカバーンに合わせることにしました。相手は初対面の女性ということ で、紳士的にYとの関係を伺ってみたところ、
「良いお友達です。」
とのこと。ワイドショーの熱愛報道か!
本人たちが白状しないのであれば、我々も実力行使しかありません。 この技は出来れば使いたくはなかったのですが、かくなる上は仕方ありません。私はおもむろにナントカバーンのお尻を撫で回しました。もし二人が恋仲なら、Yは恋人を守るために私に殴りかかってくるハズです。答えたくないのであれば、態度で示してもらう以外にありません。私に決して嫌らしい下心はなく、真実を知りたいだけなのです。むしろ尻たいだけなのです!
私の与える拷問に、二人はただじっと俯いていました。抵抗しないところを見ると、どうやら私の早とちりで二人は恋人ではないということでしょうか?私の勘違いと破廉恥な行動によって、一気に空気が悪くなります。気がつくと私は泣きながらその場を走り去っていました。Yとナントカバーン、そしてメンバーたちを置いた まま…。
後日、聞いた話によると、やはり二人は付き合っており、我々に知られることが照れくさくて隠していたようです。こうなると私はただの痴漢で、同志であったはずのメンバーからも冷たい視線を浴びせられています。私にはもう恋人どころか友人もできないようです。