先日、大掃除をしました。まぁ私って奴は壊れそうなモノばかり集めてしまうガラスの20代なもんで普通に考えるとゴミにしか見えないようなガラクタが部屋の中に溢れてるんですよね。手書きで「シャ乱Q ベスト」とか書いてあるカセットテープだとか今となってはベストどころかワーストな代物ですし、あと「古代アユタヤ文明の謎」とかいう本を発見したんですけど誰が何のために買ったのかサッパリわかりませんからアユタヤ文明よりも私の部屋にこんな本があることの方がよっぽど謎です。
こういったタメ息ドンキホーテなゴミどもをしゃかりきコロンブスな気持ちになって処分したんです。そういった要らないモノの一つとして加護ちゃんのキーホルダーに関しては正直ためらいもありましたけど加護亜依というアイドルはもう煙草のケムリと供にお空へ消えてしまった存在ですし、加護ちゃんという偶像を崇め奉ることはもはや時代が許さないような空気になっています。しかしキーホルダーをむんずと掴み不燃物ゴミの袋に投げ入れるというその一歩が踏み出せないんですよね。震えながらじっとキーホルダーの中の女神(加護ちゃん)を見つめていると
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「大丈夫、ミスターMクンならきっと私がいなくても生きていけるよ。」
と心の声が聞こえてくるような、そんな気がして、結局涙ながらに別れを告げましたよ。
「ありがとう、そしてさようなら。キミ無しじゃ生きていけなかったボクだけど、これからは違う。成長した新しい自分になるんだ。心配しないで。キミとの想い出を胸に再びスタートを切るよ。 AKB48と。」
と人生の新たな出発をカッコ良く誓っていると涙で滲んだ視界に古ぼけた一冊のノートが。こんなノートに見覚えもありませんし、どう見てもゴミなんで即座にゴミ袋へダイレクトインなんですけど一応中を開いて確認することにしました。
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「一緒にお笑い、やらん?」
もう数年前の学生時代のことでしょうか。将来への漠然とした不安と根拠のない希望の狭間で揺れていた若かりし青年だった私が友人から突然こう持ちかけられました。あまりに突拍子もない提案だったので彼の発言の真意をはかりかねていたんですけど、もしかしたらお笑いやろうぜって言う誘いそのものがギャグなんじゃないかとかそんなことを考えていたんですけど、そんなのお構い無く彼はこう続けます。
「ミスターMってさぁ、ギャグセンスもそこそこ高いし俺ら二人が組めば結構良いコンビじゃね?」
「ん?でもそういうオマエはギャグセンス全然ねぇやん…」
「そう!それ!そのツッコミ!やっぱお笑いやるとしたら相方はオマエ、ミスターM以外おらんて!」
完全に相手の話を聞いてないうえに現実まで見えてないこの男ってのがまぁ見かけは割とマジメそうに見えなくもない反面、性格は少しだけチャラ男とも言え、どちらかと言えば若干小柄ですけどまぁ中肉中背の範疇に収まる体型で、ブサイクすぎずイケメンすぎず、オシャレにも適度に気を遣って、しかし過度に派手でもなく、かと言ってそこまで地味でもないタイプの何処からどう見ても普通の男なわけで、普通に大学行って普通にバイトして普通に彼女とデートしてっていうステレオタイプな若者ライフを謳歌している奴なんですよ。小学生がなんとなく描く将来の夢だと宇宙飛行士、中学生になるとJリーガー、で大学生くらいだとお笑い芸人ていうのが脳内に一瞬浮かびはすれども決して実現を目指そうとしない儚いドリームなんですが、この普通の男も例に漏れず律儀なほどに王道パターンを踏んでいるのです。
最初は彼のことをキチGUYの類いだと思いスルーしていた私でしたが彼の熱意…というかしつこさと、あまりの私へのヨイショっぷりに次第に心を揺り動かされだしましてね。ある夜に彼からこんなメールを受けとったんです。
「マジでコンビ組もう。オマエん家の前で待ってる」
その時ちょうど私は何かの用事で出掛けてまして、しかも外は嵐吹きすさぶ豪雨です。こんな大荒れの天気の中で家路についてしかもゴール前ではキチGUYが立ちはだかってる、考えただけでも自分の不幸を呪いたくなるシチュエーションですけどさすがに帰らないわけにはいかないので重い足どりで帰路を辿っていました。ただでさえ暗闇で視界が悪いのに横殴りの雨でマトモに前が見えません。傘なんて全く役に立たず顔から下がほぼズブ濡れですからね。「こんなに濡れちゃって下の口は正直だな」なんてエロいことをホザくどころか上の口まで濡れてしまいかねません。もともと下の口なんてついてねぇし。グチョグチョのエロエロになりながら風は冷てぇわ雨は凄ぇわキチGUYが待ってるわで今日はとんだ厄日だぜ!とかブツブツ言ってたんですが途中でふと気付いたんですね。
この嵐の中でアイツは俺を待っている……
何てことでしょう。私は彼をウザイだとかキチGUYだとか散々罵っておいて、迷惑扱いしておいて、彼の夢を嘲笑っておいて、それでもなお彼は私を必要とし夢を共有しようとしてくれているのです。自分の愚かしさに何故気が付かなかったのか。キチGUYなのはむしろ私の方じゃないですか。厄日どころかこれ以上ない最高の幸せを授受しているんですよ。バカ!バカ!私のバカ!一筋の滴が目頭から頬を伝いました。それは冷たい憂鬱の雨なんかではなく、もっと熱くそして美しい滴です。
目の前の夢を掴もうとするかのように自然と傘を捨て走り出し、等間隔に並びぼんやりと闇夜を照らす街灯を一つ二つと追い抜いて行き、最後の角を曲がるとそこにはいつもの彼の姿がありました。この瞬間に私の友人としての彼が相方としての彼になったのです。相方はこんな私を待っていてくれたのです。
車の中で。
携帯ゲームしながら。
うん、まぁね、別にドラマみたいに濡れたまま突っ立ってなくてもいいんですけど、勝手な想像して勝手に感動していた私がバカなんですけど、ズブ濡れの私の肩に手をやって「いよっ!水も滴るイイ男!」はないじゃない?セリフが昭和すぎるじゃない?ギャグセンスの欠片もないじゃない?
なんかね、このキチGUYがドコまでもおめでたいことに自分でネタを考えてきたらしく完成直後の出来立てホヤホヤをわざわざ私に見せに来たらしいんですよ。ネタなんて腐るもんじゃあるまいし明日にしてほしいことこの上ないんですけど、腐ってるのはオマエの頭だろがとか言ってやりたいこと山の如しなんですけど、キチGUYが言うには世紀の大傑作で今後の自分のお笑い人生においてコレを超えるネタは二度と生まれないだとかお笑い人生まだ始まってすらないのにもうピリオドを打つ気マンマンなセリフを吐いてたんで見てやることにしましたよ。
どうせ大したことないだろうと軽い気持ちでネタを拝見したんですけど、いやはやコレが驚愕の一言に尽きます。基本は二人で演じるコントで、まぁよくある形としては「患者と医者」や「先生と生徒」みたいなパターンですよ。ところがキチGUYの考えた設定が「ソープ嬢と童貞」とか「独裁者と貧民」とかまずその時点であり得ません。テーマがダークすぎて笑えない。お笑いスターを目指すどころの騒ぎではありません。
で、問題の「ソープ嬢と童貞」なんですがオチを先に言っちゃうと、初めてソープに行った右も左もわからぬ童貞の男の子扮する私が18歳と言い張るおばちゃんソープ嬢ことキチGUYに間違った性の手解きを受けるドタバタを繰り広げるんですが最後によく相手の顔を見たら実は親子だったというミラクルな展開なんです。最後に
「お、お母さん!」
「たかし!」
で暗転していくんですけどドタバタの途中でいくらなんでも気付くだろ!途中にオチへの伏線としておばちゃんが
「私にもアンタくらいの年頃の息子がいてね」
なんてセリフがあるんですがそれ言っちゃうとオチのネタバレは必至です。ハウツーセックスという名目で肩を揉ませて
「最高の愛撫よぉ?。もっとぉ?」
と恍惚に浸るババァとか
「アラ?かわいいお客さんじゃないの?トシちゃんに似て私のタイプだわ?」
なんて宣いながらも頑なに18歳だと言い張るババァとか、いろんな意味で「こ、これは危ない!」と叫ばせるようなアイデアが満遍なく散りばめられてまして、まるで糞の宝石箱や??と思いましたからね。
その次の「独裁者と貧民」も酷いんですけど重税に苦しむ国民(私)がチョビヒゲ生やしてナチスのハーケンクロイツ(卍みたいな形のマークね)の代わりに『悪』て書いてある腕章をつけた判りやすい独裁者(キチGUY)に理不尽な仕打ちを受けるストーリーです。ソープ嬢のようなカオスな下ネタからは逃れられたかと思いきや
「えぇ?い!私に逆らうとガス室送りだぞ」
で握りっ屁とか
「水を…水をください…」
で小便のミッチリ入ったし尿瓶を渡されるとか、ウンコの香りとともに危険な香りが漂ってくるシロモノです。
あと独裁者が国歌を歌うんですけど
「グハハ!この独裁体制に相応しい国歌を制定してやったわ!愚民どもよ!恐怖するがいい!」
「なにィ!どんな恐ろしい歌なんだ…」
晴れわた?る日?も雨ぇ?の日?もぉ??
浮かぶあのぉ?笑顔ぉ??
思い出ぇ?遠ぉ?く褪せて?もぉ??
会いたくて??会いたくて??
きみへのぉ?想い??
我が闘争??
て最後の「我が闘争??」のときにハイルヒットラーのポーズをするんですけど、この時のキチGUYの顔がちょっと勝ち誇った顔になってるんですよ。「今、ぼくはヒトラーの我が闘争と涙そうそうを掛けてウマいコト言いました」みたいな。ちょっとイラッとしましてね。思い出すだけで粛清したい。
「俺の実力、どーよ?」と自信たっぷりにネタの感想を求めてくるキチGUYに対して本当はネタ帳ともども彼を地獄の豪火で燃やしてしまおうかと思ったのですが、一応キチGUYでもキチGUYなりに一生懸命考えてきたネタなので彼を傷つけないように気を遣いながらソフトにですね、主にお下劣すぎるダークな部分に関して遠回しな修正案を出していきました。
「最初のコレ、凄く面白いけどラストの親子オチは先読みされそうな……いや!ネタのレベルが低いとか、そういうんやなくてね!もしかしたら凄く勘の良い人がおるかもしれんやんか!オマエのネタが冴えとるだけにそうなったら勿体ないやんか!やけんさ!この設定をさ!童貞とソープ嬢やなくて、最初から童貞とお母さんに変えてさ!で、この二人を対比させてさ!根暗で引っ込み思案な息子にやたらとテンション高い母ちゃんが大ハッスルみたいなさ!」
「そっか!それでハッスルしすぎて息子の童貞奪うことにしよーぜ!」
きえええええええええええええええええええええええええい!!
「あと独裁者のヤツは本当にクオリティ高いけど独裁者ってホラ!あんまり馴染みがないっていうか俺達にとってそんなにリアルじゃないし……勿論このままでも大爆笑は確実やけど、もっと日常に即した感じの、例えば偉い先生と立場の弱い生徒とかにしてさ!先生の指導が明らかにおかしいていうネタにするとさ!観てる方もより入り込みやすくなるやん?」
「バカ!そしたら我が闘争が歌えんやんか!」
ずおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!
ソープ嬢に関しては彼の頭には下ネタ以外の選択肢はなく、独裁者ネタも最後にお気に入りの我が闘争を歌いたいだけだったようです。さらに彼はこう続けます。
「ミスターMの案もいいけどぉ、母ちゃんに貞操を奪われかけた童貞が屈折した人生を歩んで後に独裁者になって歪んだ世界を創造してしまうっていう俺のメッセージが伝わらんやん?」
なるほど、この二つは実は繋がってたんですね。ていうかそんなメッセージわかりにくすぎて誰にも伝わらねーよ!地球人類60億人のうちオマエ1人以外絶対に気付かねーよ!
それから彼との壮絶なネタ合わせの日々が始まります。散歩というタイトルで公園に繰り出すコントがあるんですけど
「うわ!やめろよジョン!そんなに俺の顔をペロペロ舐めるなよ!くすぐったいじゃないか!コラ!やめろってば!ジョン!」
何だか動物とのふれあいで心暖まる始まりです。これはイケる!ここからの展開で下ネタは絶対にない!と思いきや、このジョンってのがゲイのアメリカ人男性ですからね。もう必死の抵抗で「やめろ!やめろよ!ジョン!舐めたら…ダメ…や…め…」なんてコトになってます。
どうやら散歩に出た公園ってのがゲイの集まるスポットとして有名な、いわゆるハッテン場という設定らしいんですね。もうコントの後半からは普通に「脳のシワが足りないぶんアナルのシワはスゴいよ」とか言ってますし。犬のことを忘れたところで
「こらぁ?ジョン!またこんな道端でウンコしてぇ?(怒)」
いや、いくらアメリカが自由の国とはいえ自由すぎだろ!自由にウンコしすぎだろ!大体何ですか!下ネタばっかりやし!何の脈絡もなく突然出てきたジョンて誰よ?何してる人よ?年はいくつよ?ていうか知能レベルが完全に犬並みやんか!
「ジョンは今40歳だからぁ?、人間で言うと大体40歳くらい?」
やっぱ人間やん!それ、人間やん!
最後は「お手!お座り!チンチン!」でジョンが下半身を露出し、次の「オマワリ!」で偶然パトロールに来ていた警官から逃げ、我々も一緒に舞台袖まで走り去っておしまい。という誰にも見せられないような、爺ちゃん婆ちゃんパパにママ、揃ったところで始められないようなネタなんですけど、何だか過去のネタを日記で紹介するのが物凄く恥ずかしくなってきました。
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掃除中に偶然みつけた古いノート、それは思い出したくもない記憶、そして便所の落書きみたいなアイデアがぎっしり詰まったネタ帳だったのです。その後の彼とのコンビはどうなったかと言うと、大学卒業を前にして「ミスターM?俺、就職決まったゼ」の一言で完全かつ簡単に消滅したんですが、まさかボケの方から「いい加減にしなさい!辞めさしてもらうわ」で締めくくられるとは予想外の展開です。しかし今となっては彼と過ごしたあの時間こそが私の青春だったと言えるのかもしれません。あの頃を振り返ると確かにムダで非生産的なことに夢中で取り組んでいました。でも今の自分がそんなエネルギーや創造性を未だ持ち続けているかと言えば絶対にそうは思えませんし、何より不確かなもののために全てを擲って必死になることなんて出来ません。そんなふうに考えながら静かにノートを閉じ、加護ちゃんのキーホルダーのように躊躇することは一切なくゴミ袋に全力で叩き込んでやりました。
キチGUYの「辞めさしてもらうわ」より加護ちゃんの「辞めさしてもらうわ」の方がよほど痛い!キチGUYのウンコネタはゴミですけど加護ちゃんのウンコだったら余裕で家宝!何だか相変わらず長くなって結局何が言いたいのかわからない文章になりましたけど、今日の日記はこの辺で「辞めさしてもらうわ」!